神龍寺生たちが生活する寮の中。毎日毎日がアメフトの練習ばかりに費やされると、たまの休みを持て余し気味になる。一休が同じ寮内のとある部屋を訪れたのはそんな閑を潰すためで、部屋の中では雲水がいつものように1人の時間を過ごしていた。
「阿含さんは、またどっかでかけたんですか」
小奇麗に片付いている部屋の片隅に一休が座り、コタツの上のサングラスを眺める。いつもの事だな、と穏やかな雲水の言葉。沈黙が続き、手持ち無沙汰の一休はサングラスをかけてみた。色の違う視界の中で、雲水がこちらを見て少し笑った。
お互いに用事や予定が何も無いこの時、こうやって穏やかに一緒に過ごす時間が一休はとても気に入っている。何も邪魔が入らなければいいなと思う所に山伏がひょいと顔を出した。まあ、大抵はこういうもんだ。
「雲水、去年のアレの写真持ってないか」
卒業アルバム用の写真が必要になったんだと言う。アレというのは去年神奈川1位になった時の祝賀会で騒いだ時の事だ。ここ例年に無い騒ぎだったので当事者の間では「アレ」で通じるのらしい。几帳面な雲水は自然そういった写真を保管する位置に収まっていた。本棚から分厚いアルバムを引き出すと、言われた写真を手早く探し出す。当然ながらその当時の事を一休は知らない。少し図々しいかなと思いながら横からアルバムを覗き込んだ。雲水の顔色を伺いながら、これは何ですかと質問を繰り返す。当時1年だった雲水が阿含に無理矢理かぶせられた不機嫌な顔。上機嫌だった阿含が雲水を巻き込み外で通行人をからかったもの。最後には互いに似たカツラをかぶせあい、祝勝のムードを楽しんでいるもの。
そこに自分がいなかった事の悔しさ。次の祝勝会には一緒に参加出来ると思う嬉しさ。でもそこに山伏先輩をはじめとする何人もの顔が既に無いだろう事の寂しさ。一休の複雑な思いを何となく感じ取ったのか。当時をただ懐かしく思い返しているだけなのか。山伏も雲水も何も言わずに写真を覗き込んでいた。
何とも形容出来ないゆったりとした空気は、雲水のルームメイトが戻って来た事で破られた。周囲にまき散らす酒の匂いの強さから、阿含が随分長い時間を外で過ごしていたんだとわかる。
「人の部屋で何やってんだ」
「朝返りしておいてその言い分は何だ」
「寝てねぇから、ネミーんだよ。これじゃ足伸ばせねぇだろ」
機嫌悪そうにそう言い捨て、阿含はそのまま床の上に転がった。部屋に5人は確かに狭い。けれど、ベッドの中に転がり込めば問題は無いはずだった。
何だかんだで阿含が寂しがりやな事を雲水は知っている。2人が出ていけば、つまらねえとごねはじめるのだ。いつも文句を言いながらも、阿含は人の中心にいる事が好きで、雲水はそれが似合っているとも思う。
山伏も一休も、阿含を恐れずに近付いて来る貴重な存在。こいつはもうすぐ眠るから出て行かなくていいと目で合図を送る。声を出すのも面倒なのか、雲水の膝を阿含が不満そうに足裏で蹴る。その足を雲水は軽く手のひらで叩いた。
ぶつぶつと文句を言いつつ、阿含は次第に大人しくなった。腹を見せてごろりと転がったまま熟睡するのだから随分とこの状況に気を許しているんだろう。ようやく落ち着いたなと3人が顔を見合わせた。そこで山伏が脇のホウキを手に取った。眠る阿含の後ろの壁に、静かに静かに立て掛けた 。
山伏の意図を察した2人が同時に吹き出す。声を上げないように苦労しながら、3人は体を曲げて笑った。
一休は腰のポケットから携帯を取り出した。これは、貴重な光景だ。
とある、休日のちょっとしたの1シーン。
この顔ぶれで作る事が出来た忘れ難い思いでの1つ。