[大晦日]
息を止めて熱を持った腰を持ち上げる。
散々たまった圧力を勢いに変えようとして……。
先端近くに走る痛みがヒル魔の集中力を散らした。
「っ……、くそっ……」
ついさっきは、寸前にその先端をふさがれた。
その前は、急に声をかけられた。
一度や二度ではない、こちらの気を乱す動きとタイミングのずらし方にヒル魔は武蔵を睨み付けた。
腰の奥を貫くこの男の動きは、今日はどうにも緩慢だ。
「……年が変わる前に死にてえのか」
枕元にある重い銃器へとヒル魔はゆっくり手を伸ばした。
「あ……すまん、わりい」
日付けが変わるだけで年号が変わる2005年最後の一日。
その残り数時間を、こんな気の抜けたセックスで終わらせるつもりはヒル魔にはなかった。火照っていた身体は一度冷え、それから次第に怒りで熱くなる。
この男は、一体さっきから何をやっているんだろう。
「やってる最中に考え事たぁ、良い度胸だな」
明らかに集中していない。
目を合わせもせず、動きがそぞろだ。
ヒル魔の奥へ押し入った熱は、熱く固く、けれどその動きに勢いが無い。
「……や、別に……」
無精髭にざらつく顎を、細い指が素早く捕らえた。
逃げるように答えを避けて泳ぐ目線をヒル魔は強引にこちらへ向ける。
「言え」
逃げる、ごますなどを考える武蔵を一言で否定し、ヒル魔は声に怒りを伝えた。
「いや、その……な?」
ヒル魔の両脚は、武蔵の肩に乗せられている。不安定な姿勢のままヒル魔は片方の脚で肩を蹴った。
「今日、大晦日だろ?その、うまいこと今日から明日までやりっぱなしだと……」
ぼりぼりと頭を掻きながら武蔵が上目遣いでヒル魔を伺う。少し目尻に照れを含ませ、もぞもぞと口を動かすがその内容は相変わらず下品な物だ。
「2年挿し、つうのを……やってみたくてな!」
ヒル魔の眉根がさらに皺を深く刻んだ。機嫌を取るように近付いてくる顔を、ヒル魔は片手で押し退けた。
「そんな日本語は存在しねえ」
尚も近寄ろうとする品の無い顔を足の裏で蹴りつけた。力任せに、顔の向きを変えさせる。
「今何時だと思ってやがるんだ」
「8時、半……まえ………」
「今から盛って、んな事出来ると思ってんのか!」
「いや、俺だってもう少し後からしようと思ってたんだよ」
武蔵からくらべれば随分と細いヒル魔の足首を捕まえると、それをばたりとシーツに落とした。雑に扱かわれた事が不愉快でもう数回蹴ろうかと考えたヒル魔は、何か言いたげな顔に動きをしばらく止めてみた。
「お前がやりたそうだったか……」
ためらいもなく、無防備な腹にかかとを打ち込んだ。体勢が変わり、武蔵が呻き、動きはヒル魔の内部にまで伝わる。動きを止めていた場所に妙な振動が突然加わり、反射的に武蔵を締め付けかけたる内側をなんとか押さえる。
「てめえ、初詣に行くんだろうが!」
「……あ?、…………ぁ!」
腹から声を出したせいで、余計にその奥の物が意識させられた。何度も射精を止められたせいで刺激に飢えた身体は、ともすれば自分から腰を揺らしかねない。今はそれより怒りが先だ。大声を出す都度、腹筋の揺れにさえ反応しそうな内側の動きに注意を払いながらヒル魔は怒りを発散させた。
「てめえが自分で約束したくせに……」
「……あ、いや、忘れてた訳じゃ……」
「っざけんな」
武蔵の腕が腹をガードしたのを見極めてヒル魔はみぞおちにそれを叩き込んだ。
小さく呻いて武蔵の身体が丸くなる。すまん、と呟く声はあえて聞こえないふりをした。
デビルバッツの1年達が、終業式に部室で楽しそうな笑い声をたてながら相談していた年始の予定。たまたま近くにいた武蔵はそれに巻き込まれ、むしろ初詣では行った事が無いから楽しみだとさえ口にしていた。割合、人付き合いを積極的にしない武蔵へ距離を感じるメンバーもいる中、恐れ知らずのセナとモン太がほとんど全員に声をかけた。クリスマスボウルへの必勝祈願だと言われればやはり皆はその気になる。
隠そうともしない面倒くさげなヒル魔の態度は、「楽しみだな」とつぶやく武蔵の前に柔らかく消える。「いつもの面子で年明けから一緒か」とぼやけば「たまには良いだろう」と珍しく武蔵が乗り気の発言を返す。
だから。
だから、「一人で家にいたら寝ちまう」という武蔵の主張にわざわざ部屋によびつけてやり。ヒル魔にとっては程良い室温を「この部屋、熱ぃ」と窓を開ける愚行にも部屋から叩き出すのだけは我慢してやり。突然冷えた室温、厚着は嫌い、エアコンを強くすれば今より乾燥する空気が嫌で、どうにかしろと文句を言えば満面の笑顔で抱き締められた。本気でこの男の頭には何が涌いているのか、不安になる一方で振りほどけない自分の甘さは考えない事にした。
そんな中で、何となくコトになだれこんだ、のに。
そういや一緒に年を超すなんて始めての事だなと思っていた、のに。
気ののらなさそうなセックス。身が入っていないような、中途な刺激。
その気になってもタイミングをずらされ、射精を先延ばしする理不尽さ。
これで怒らない方がどうかしている。
睨みながら蹴っていたヒル魔の足首が武蔵につかまれ、再びシーツに押し付けられる。
大きく足を開く形になって、ヒル魔は一瞬息を止めた。
「もうろくしたか、糞爺」
「あー……、すまん」
どれだけ動きが鈍かろうと、突き込まれた中はとても熱い。
行為を長引かせようとする武蔵の動きは、焦らしにもにてむやみに熱を煽るばかり。
高められた身体は、むしろ些細な刺激さえも食い付きたがり、ひくつく内部は武蔵の物を締め付けたがる。
会話が続く間。
足首を掴まれる衝撃。
つき込まれたままの武蔵のモノを、締め付けないように自制するには辛さが伴う。
身動きする毎に腹筋はひくつき、じれったさに腰がうずく。
「待ち合わせは、何時だ」
「11時……」
「飯食って、風呂入って、服着替えたら時間ねえだろ」
「………はい」
しょげる武蔵の首筋に、ヒル魔は乱暴に腕を回した。
体重をかけてぶら下がり、近付く頬に唇を立てた。
舌の先でちりちりとした無精の跡を味わい、さっさとしろと言葉に変えて腰を振った。
「悪かったって思ってんなら……」
唇を這わせながら合間にヒル魔が小さく囁く。
「さっさと満足させやがれ」
ヒル魔がそれ以上何かを口に出す前に。
腰を強く打ち付けられて声が止まった。
要求した途端の、その変わりようにヒル魔は笑った。
背を反らし、揺らされるそれに身体をゆだね、咽から競り上がる声を噛んだ。
どことなく不満そうなその顔に手を伸ばし、耳元から顎先までを何度かなぞった。
口端がつまらなさそうに下がった部分を指でつつくと、数度でそれはだらしなく弛む。
武蔵の顔のラインをなぞりながら、次第に柔らかく触れる余裕がなくなってしまう。
離したく無いと思いながらもヒル魔はその手をシーツに落とした。
指先に冷たい布をなぞり、爪を立てて強く握る。
押さえられていた欲求はただ一度では満足出来ず、同じ気持ちらしい武蔵に向ってヒル魔は何度も腰を揺らした。
セナは携帯に何度も視線を走らせた。
待ち合わせの時間は11時。その前後にぼつぼつと各自から連絡が入り、間に合わない、境内に流されちまって身動きが取れない、などの慌ただしい連絡が続く。予定の時間に顔を合わせられたのはごくわずか。風物詩とは言えあまりに多すぎる人並みにまともな待ち合わせも出来そうにない。結局、時間をずらして再度落ち合おうと決めてからも「彼等」からの連絡が無い。
12時を過ぎて少し。ようやく届いた電話の第一声は、「すまん」という謝罪。
「どうしたの、セナ。ヒル魔君から?」
「ううん、武蔵先輩から。二人とも風邪引いちゃって、出られなくなったんだって」
「ええ、珍しい」
「武蔵さん、声がさがさだったよ」
「残念ね……凄く、楽しみにしてたのに」
「うん、でも……」
電話の短い会話を思い出し、セナは少し首をかしげる。
「凄く、楽しそうだったけどね」
1年の締めくくりと1年の始まり。
2006年、二人のそれはこんな具合に始まったのだ。
2006年02月19日(日)
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