なあ蛭魔。俺はお前が本当は嫌いだってこと。
知っていたか?
隣の席で寝息をたてる金髪の男は目を覚まさない。
知ってるよなあ。お前、俺しか見てなかったから。
頬には殴られた痕。首筋には幾重にも絡まった紐が残る。
なんで俺なんだ?
おかしな方向にまがったまま、固まった指先。長くて綺麗に動くそれが目障りで力任せに踏み付けてやった。
痛いと声もあげずにうずくまる姿が腹立たしくて、思いきり蹴ってやった、顔。
俺にどうされたい?
多分できる事は何でもやった。初めは愛してやった。愛して、愛して、あいしてやった。
可愛がってやった。全部を独占してやった。憎んでやった。嫌ってやった。
バカにしてやった。そうして、合間に優しくしてやって。
二人でできる事はきっと全部しつくした。
顎をなぞれば、ひきつった傷の痕が指に知らせる。
刃物を当てた時でさえ、楽しそうに笑ってこちらをみていた蛭魔。
すう、と穏やかな寝息だけが、蛭魔の生きている証。
お前は、ここで死んだっていいんじゃねえか。
生きてたって何もない。もう、何も無い。
俺はお前を置いて行く。
お前を独り、残していくのがとても心配だ。
夏が残った熱い大気は、肌の表面をべっとりと湿らせる。
顎をなぞる指の先はするりと乾いていて、生きている気配が感じられない。
これだけ暑い気温の中で、この乾いた具合がいつも不思議だった。
いつから俺は、お前が嫌いになったんだろうな。
俺にあわせて。一つ一つの階段を降りてくるお前を見るのが。
俺は本当に好きだったんだ。
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