LOOKS HAPPY  ヒロミ さまへ】 
* *まどろみ * *



いつ眠りに落ちたのかも気がつかなかった。
再び目を閉じるのが惜しい気がしてうとうと眠りと覚醒の間を行き来する。 窓を開けていない室内は、朝の光が満ちてだんだんと夏らしい熱気が満ちてきた。薄 暗かった中では輪郭だけだったヒル魔の表情が、次第にはっきり形を見せ始めた。小 さな寝息を繰り返す無防備な表情。
こいつのこんな表情を見るのは一体、いつぶりだろう。
会えない時間はあれ程長く感じたというのに。今、こうして目の前で寝息をたてるヒ ル魔を見ていると、そんな時間がすっぽりと抜けたような気にさえなる。
手を伸ばして、目元に触れた。疲れを残す目尻が指先にざらりとした感触を伝えた。
頬から顎に伝わるそのざらつきを指で追って、武蔵の頬が緩む。
力の抜けた頬の感触は、自分だけが知っているものだ。昔より少しごつくなったよう な印象を受けたが、寝顔は変わらない。むしろ、思った以上にあの頃と変わらない。
とろ、と眠気がまた襲って来て武蔵は手のひら全体を使ってヒル魔の頬を撫でた。寝 息が途切れて、目が開く。夢から覚め切っていない様子で、少し瞬いてから武蔵に目 が向いた。

頬に添えられた武蔵の手の甲を、確かめるようにヒルの指がなぞっる。
細くて長い、特徴のある指が何度も往復してから少し躊躇って重なった。
試合が終わって、直後の興奮がゆっくりと覚めても。ヒル魔に対してのこの内側から の衝動は治まらなかった。
身体が楽な訳じゃないだろうに、久しぶりの行為はむしろ互いに急かすように始まった。
押さえがきかない性急さでヒル魔を何度も突いて、揺すって、吐き出して、思うままに 名前を呼んだ。
自分を締め付けるその場所の狭さも熱さも記憶の中以上で、無理をさせているなと思っ たけれど。ヒル魔はそれでも、嫌だとは言わなかった。
快楽の波を何度も繰り替えしながら、お互いにバカみたいに次を欲しがった。
実感が欲しかった。
あんなに辛かった毎日が、もう終わったのだという実感。確信。確証。
そして、ようやく2人が動きを止めた頃には。薄い陽の光が室内に差し込みはじめていた。
身体は平気か、とか。
久しぶりだな、とか。
声をかけたかったのに頭をよぎる言葉はどれも形にならなくて、代わりに武蔵は自分 の手の甲に重ねられた指をつかんだ。ぎこちなく手のひらを返して、うまくつかめな いままに手の中にその指を押し込める。
やんわりと、だんだんと強く握りしめて、目の前の姿が夢じゃないと何度目かの確認 をした。布の間からちらちらと見える素肌に、記憶が嘘じゃない証拠の赤を目で追い掛けた。
手を握られた事に少し驚いた表情を浮かべたヒル魔はそれからにい、と笑った。もぞ もぞと手の中でヒル魔の指が動いて、逃がさすものかとそれを追い掛けて。しばらく 指だけで遊ぶようにじゃれて、それから。
武蔵は握ったままの指をそのまま布団の中に押し込んだ。その分、少しだけ距離を詰める。
少しぽかんとしてから、顔がくしゃりと笑みに歪んだ。こちらの意図を汲んでいる証 拠に、ちら、と片目が開いてまた、閉じた。その頬に唇を落とす。触れるだけのキス を繰り返して、唇に塩の味を感じる。何か言おうとして、やはり旨い言葉が見つからなかった。

楽しそうなヒル魔を、こんなに間近で見るのはどれだけぶりの事だろう。

布の下で、ヒル魔が指をぎゅうぎゅうとからめて来るので武蔵も負けじと指を握りし めた。すぐ目の前の楽しそうなヒル魔の目が少しまたたいて、指の動きがぱたりと止 まる。そこに眠気を感じた武蔵は「まだ時間がある」と声をかけた。小さく、ん、と うなずくように頭がシーツに沈んで、「お前も寝ておけ」と返された。

思い通りにならない仕事と不安と不満。いら立ちと後悔と欺瞞に満ちていた毎日。
ゆっくりと休めた日なんて、多分数える程も無い。
身体を酷使して、泥のようにベットに突っ伏し、考え事を全部脳裏から押し出してい ただけの夜。それでも何度も繰り返される悪夢にうなされて起こされた朝。
それが全部終わったのだと、手の中の温もりが教えてくれる。なのに。
どこか不安をぬぐい去れない。眠って、目がさめれば。またあの朝が巡って来るよう な気がした。
落ち着かない日々に慣れてしまった脳裏が、これはいつものお前の夢だと囁いて来る。

もうこの手を。
離す事が無いと良い。
そう思いながら眠気に落ちそうな意識を惜しんだ。
明日も、その先も、ずっと一緒だとわかっていても、どこか不安で何か、確信が欲しくて。

武蔵はもう一度手の中のヒル魔を握りしめた。




















現在サイトの方が更新停止(?)されておりますが、本当にすごーーく一杯たくさん
素敵ムサヒルのイラストがたまりません。今でも地味に通わさせていただいております。
「手をつなぐ」っていうリクでして、確かこれってひとさまからお題を頂き
初めてどなたかに差し上げる、と言う形式をとった物な気がします。
サイト様に差し上げるって、難しい!凄く緊張する!というのを敬虔しました。
本当に日記描き始めの頃だったのですが、親しくさせていただきまして
満足にまだお礼も言えておりません。深々。

素敵なイラストもつけていただき、恥ずかしいやら照れくさいやら。
いつでしょう、多分去年の6月とか7月とかその辺に書いたもので
武蔵が戻ってきたばっかりだったんですね。長髪です。超武蔵だった頃です。
ヒロミさんの武蔵の腹が本当にたまらん魅力でぎゃあ!と叫んだりしたんですが
にこやかに受け止めて下さった度量の深さに頭が下がります。

ほんと、誰にでも突撃してるなあ……。当時からしてみると少しは
ほんとに、多少なりともは落ち着きなる部分をスキルアップさせてみたはずですが
迷惑かける部分はこれっぽっちも進歩してないなあ、と。
当時を振り返り今と照らし合わせて、何とも微妙な気持ちです。