やんかちゅ工務店  ヤンヤンさまへ】 111111記念サンドイッチ
* * 武蔵が2人とヒル魔が1人 * *



アメフトの練習も終わり、すっかり辺りが暗くなった頃。
帰宅を急ぐムサシとどことなく足どりが重いヒル魔は同じ道を歩いていた。
そうさせているのは、一人暮らしのヒル魔の家に増えた同居人の事。

道ばたから部屋を見上げると煌々とついた明かりに自然に漏れてしまうため息。
どうした、と振り向くムサシに何でも無いと頭を振る。
表札のかかっていない501号室のドアは鍵もかけられず易々と開く。
「帰ったぞー」
脳天気な呼び掛けにいそいそと表れたのは今の今までヒル魔の隣にいたムサシと
寸分違わず同じ姿の男であった。
慣れる事の出来ない頭の悪いその現状に、ヒル魔は深々とため息をついた。


高校に入ると同時に武蔵の父親が倒れた。
嫌な想像がことごとくあたって、武蔵が退学を決断する。
何か解決策はないのかと模索し、疲れて眠る夜と。
何も変わらないのに過ぎて行く時間がいやで起きる事が苦痛だった朝と。
その繰り返しの果てに、現実が変ぼうした。

突然増えた、もう一人の武蔵。
声も顔も態度も何もかもが同じ、武蔵。
目の前に並んだ二人を目にした最初のあの衝撃を今もヒル魔は忘れられない。




「今日も遅かったな。」
武蔵はいそいそと二人を出迎える。慣れたようにムサシが廊下の奥へと足をすすめた。
玄関でのろのろと靴を脱いでいたヒル魔は武蔵からの痛いほどの視線に顔をあげる。
じっと見つめるその顔がふいをついて、接近するから諦めてそれを受け止めた。

お帰りと、ただいまの無言の挨拶。

大工の道を選んだ武蔵は、学生である事を選んだムサシと少し違う。
元は同じ物のはずだったのに、鬚が濃い。髪が太い。声が低くて煙草臭い。
笑うとムサシより皺が多い。
老けた雰囲気が強いから、たまに見せる笑顔のギャップに見ているこちらが照れてしまう。
大人びた態度を昼間の時間に求められるからだろう。
こうして緊張を解いた武蔵は、いっそムサシよりも子供臭さを感じさせる事が多かった。

昼間の、離れている時間を聞きたがる。何があったのか、今日はどんな事をしてすごしたのか。
たまに、ムサシと入れ代わる事もある。
明らかにこの状況を楽しんでいる武蔵達にくらべ、ヒル魔の気苦労は格段に増えた。

栗田をはじめ、あっけらかんと現状を受け入れている周囲からは想像も出来ないだろうが。
同等に扱わなければ拗ね、不服を全面に押し出し、我が侭と自己主張だけは声を合わせて
その総てがヒル魔に押し寄せる。
何の事はない。武蔵が増えて、トラブルが倍に膨れ上がったような物だ。
共にいる事に慣れ過ぎた関係がそうさせるのだろうか、最後の最後で
ヒル魔はどうしても武蔵達を甘やかす。

甘やかして、しまうようになった。


「今日は、何回?」
答えるまでここを通す訳にはいかないと武蔵がヒル魔を抱きとめる。
大人びた顔のくせに、やる事なす事全部が子供臭い。
いい加減にしろと過去に何度も癇癪を起こし、その都度何が合ったのかを思い返して
ヒル魔は諦めて答えを口にした。

「……5回」
「少なくねえか?」

甘えようと、一度割り切った武蔵はとことんそれを貫き通す。
ヒル魔の答えに不服さを感じたようで、不満そうにくり返す。

「5回、だよ」

側によると、汗と煙草が混じった独特の体臭が香る。
ムサシとは少し違う匂いと筋肉の質感に、全く別の男に抱き締められているような錯覚が走る。

「朝にここでと、帰りの途中と、部室で2回、屋上で2回だ!」
「それじゃ6回じゃねえか」
「……!」

早口で報告をするヒル魔のちょっとしたミスを武蔵はあげつらった。

「うっる、せえ!さっさと済ますぞ!」
 

朝、ヒル魔が起きる頃には武蔵は既に出てしまった後。
のんびりと武蔵が荒らした部屋を片付けながら登校の準備をする背後からムサシがのそりと迫ってくる。

「おぅ……」

熊のように、という形容が相応しいほどの動きでヒル魔の背後から腕を巻き付けるムサシ。
寝起きにぼんやりとしているらしいくせにヒル魔へ近付くだけはとにかく素早い。
コーヒーだけが乗る食卓が、二人分の体重にがたりと揺れる。
ヒル魔の口内に残るコーヒーの苦さを一通り舌で嘗め取り、味わいながらゆっくりと
意識を覚醒させるムサシ。
いつのまにか日課になりつつある朝の挨拶。



授業が始まる前の短い時間を教室で潰すす気になれなくて何気なく向かった屋上でムサシに会った。
いつからそこにいるのか、だらしなく口を開けて眠っている顔があまりにも無防備で、
何か悪戯したくなって。
手に持っていた油性のペンを注意深く近付けた所で逆にその手を強く引かれた。
バランスを失ってムサシへ倒れこんだ体を易々と抱き締められる。
そのままコンクリートにごろりと引き倒されて、痛いと思ったヒル魔の視界に
ムサシの顔がのりかかる。

文句を言う間も無い程のこんな手癖をどこで身に付けてきたのだろう。
ムサシの背後に広がる青空。
床に軽くぶつけた額が痛いと思うより、押し付けられる唇の熱さばかりが意識を占める。
始業のチャイムが鳴った事に気がついてもお互いに体を離せなかった、朝の出来事。




グラウンドが使えるようになるまでの待ち時間を今日は屋上でつぶした。
ラダーを敷いてステップを変えながら何往復もした後、
冷たさが欲しくて寝転んだコンクリは火照った体をひんやりと冷やす。
息を整えてから起き上がると丁度同じだけのメニューを終えたムサシがどさりと
隣に腰を下ろした。
近寄ればすぐにキスをしたがるムサシも、さすがに今は無理だろうと気を抜いていた所を、
横から軽く触れられる。

汗臭い。荒い息が頬にかかってくすぐったさに体を反らす。
すぐに離れたムサシの顔はヒル魔の肩にうつぶせたきりこちらを見ない。

「離れろよ」
「おぉー……」

返事とは逆にムサシがヒル魔を抱き締める強さは強まる。
耳に届く誰かが階段を上がる音。あれは栗田だ。
離れろと声に出さず、態度で表す。もう一度掠めるように唇が重なって
それから何ごとも無いようにムサシがその場に立ち上がった。




「それから?」

玄関で武蔵は続きを促す。
今日一日のヒル魔がどんな風に過ごしたのか。はじめは単なる報告だった。
武蔵といない時間をどうやってヒル魔がムサシと過ごしているのか。
そのうちに、武蔵が執拗に知りたがる事に限定した報告に変わり。
今ではただ、ムサシとのキスだけをしつこく聞きたがる。
どこで、いつ、どんな風に。何回したのか。
話の最中に「キスをした」とも言えずに口ごもるヒル魔の唇を武蔵は優しくふさいで笑う。
それで?と無言で先を促す。
煙草臭い味。顎にふれるちりちりとした感触。ヒル魔が口を開くまで待っている舌。
記憶の中で、ムサシと武蔵が混じって揺れる。
部室で、屋上で、教室で今日キスをした相手が、どちらだったのか。
性急に事を望んでがっつくようなムサシとの荒いキスの記憶に武蔵の姿が重なる錯覚。

「それで、次は?」

武蔵は無理強いはしない。余裕を持っていつもヒル魔がやりはじめるまでを待ってくれる。
時には意地が悪いと感じる程に、ヒル魔の反応を待ち続ける。

「その後、どうした?」

言えずに口籠ると至近距離から覗き込まれる。
ムサシだったら反らすのに。ムサシだったら言い包められるのに。
武蔵の前ではどうにも自分が簡単に崩れる。
玄関口で、いつもの報告。あいつと同じだけのキスをしたいと臆面も無く告げる武蔵に
ヒル魔は途切れ途切れに報告を続ける。
恥ずかしさに時折口を閉ざし。いい加減にしろと文句を言うように上目遣いも交えながら。
それでもニコニコと続きを促す武蔵に結局口を開かされてしまう。

武蔵は、ずるい。ずるくて、優しい。
ムサシは馬鹿だ。馬鹿で子供だ。

その二人のどちらにも最後には簡単に御されてしまう自分が悔しい。
その先をと再度促され、再度言葉に詰まったヒル魔に脳天気な声が届いた。


「10回ぐらいしたんじゃねえのか?」
一向に玄関から戻って来ない二人を、私服に着替えたムサシが呼びに来る。

「そんなにするわけねえだろ!」
「3回ぐらい、お前からしてくれた」
「てめっ、嘘もたいがいに…………」

ムサシに対して強気なヒル魔の態度に、また少しだけ武蔵が拗ねる。

「俺にはしてくれねえのに……」
「てめえまであいつの痴呆に付き合うのか!」
「俺にはしてくれねえの?」
「教室だったよな」
「お前はいいから、黙ってろ!」

武蔵に対して強く出られないヒル魔が、ムサシは少しうらやましい。
砕けて素を曝すような態度をヒル魔は自分にはしてくれない、とムサシも武蔵も同時に拗ねる。

馬鹿な二人に対応するのは常にひとり。ヒル魔一人。



武蔵が二人。
トラブル2倍。
甘さと馬鹿は、桁知らず。

少しでもイヤだと思えば決して妥協する事のない頑固さをヒル魔は常に持っている。
その気になればいくらでも主導権を握れるはずなのに、ヒル魔がいつも二人に翻弄されるのは。
無意識にこの現状を気に入っているからで。



それを知っている武蔵とムサシは今日もヒル魔に頭を寄せる。

終始、二人のうちのどっちが好きかとそんな質問ばかりを重ねて
いつも返ってくるお決まりの反応に二人は満足する。

うるさい、黙れと切れながら怒鳴りながら。
それでも絶対の拒絶をしない。
嫌だとくり返していても、最後まで続かず。
最後はたいてい喧嘩も収まる。



武蔵が二人。ヒル魔は一人。
一見トラブルばかりが増える毎日。

けれど、楽しい毎日の生活。
いつまでもこのばか騒ぎが続きますようにと。
こっそり呟かれる、三人の願い。












大好きな方がお祝い事あると、お祝いにかけつけたい、喜びに花を添えたい
お祝事に参加したい!と思っております。思っていますが花を添えられたかどうかは
さっぱりすっきり謎でございます。自己満足さんですみません。

ヤンヤンさまの、御本人さまがお持ちになってるにこやかさ、柔らかさが
現れているようなムサヒルぶりが大好きです。ほんとに、抱きつきたい!
ラブで甘くて世界は二人のためにあるようなもんなのに武蔵かっこえくて
はあはあどきどきしております。ヤンさんところの武蔵が2人もいたら、
ヒル魔はさぞ可愛いがられる事でしょうねえ。優しいし。わがままだし。
態度でかいし。でも男前だし。ああ、ヒル魔がどっちに触って欲しい?とか
言われて真っ赤になってる所とかもう、たまらんぐらいのどっきどき!!!

どっちも好きだって言えなくて二人のあいだで泣いちゃえばいいんだ!

今、色々とお忙しいかと思いますが、どうぞ御自愛して下さいね。徹夜だめですよW