【穴の花道 企画】 日付不明。お題の元は犬道楽様よりお借りしております。 
* * No. 023 向こう見ず * *











 軽く酒を引っ掛けた後、どちらともなくヤりたくなった。
 家に戻る時間も惜しい。ホテルを探すのも面倒だった。武蔵がヒル魔を押し込むように、ヒル魔が武蔵を引き込むように、うすぐらい路地に入って噛み付くようにキスをした。背広からただよう煙草の匂い。唇からもその味がしてヒル魔はせがむように武蔵へ腰を押し付けた。
いつもラフなスタイルのヒル魔のベルトを武蔵が外す。ヒル魔は武蔵のネクタイを遊ぶように緩めながら片手で器用に武蔵を脱がす。
 焦れた体はすぐに熱くなり、抱き合う強さが心地よかった。慣らすための武蔵の指にも熱を煽られて、ヒル魔は声を押し殺した。路地が面している道は、人通りがほとんど無いが、いつ誰が通るのかわからない。いつ誰に見られるかわからない。それが二人を余計に煽った。

「後ろ向け、入らねえだろ」
 武蔵が耳元で指示を出す。名残惜しく唇に音を立てて吸い付いてから、ヒル魔は背を向け腰を揺らした。さっさと入れろと言う前に、武蔵がそこに潜り込んで来る。
「んっ………、ぁっ……」
 武蔵が押し入る最初の異物感に、さすがにヒル魔が声を漏らす。
 焦らすようにゆっくり動きながら武蔵が奥まで潜り込む。武蔵が根元まで押し込むと、ヒル魔は止めていた息を吐いた。結合部分が密着して、後ろから強く抱き締められる。ああ、これから突かれるのかと期待にヒル魔が脚を開くが武蔵は抱き締めたまま動こうとしない。
 ここで焦らしたらてめぇ殺すぞ、と言いかけるヒル魔に武蔵が囁く。
「見られてる」
 ヒル魔の意識が幾分冴える。
「何人か、こっち見てるぞ」
「それがどうした」

 外でコトに及ぶのは別にこれが初めてじゃない。そういうリスクがある上で二人はセックスを楽しんでいる。今さらその程度の事で武蔵が怖じ気付く訳が無い。一体だれがこっちを見ているんだろう。武蔵に肩で示された方はヒル魔の位置からはよく見えない。こういう時は、覗かせるに限る。気がつかない振りをして、さっさと終わらせるのがいつものやり方だったじゃねえか。
 何グズグズしてやがんだ、と怒声をヒル魔が上げかけた時、武蔵が背後から膝を掴んだ。そのまま開いて持ち上げる。
 バランスが取れなくなってヒル魔は両手を壁についた。

「な、にっ……」
 内側の深い部分を武蔵の先端がぐるりとえぐる。とっさの刺激に耐えられずヒル魔は唇を強く嚼んだ。
「お前ちょっと女のフリしろ」
 武蔵の言葉を理解する前に、ヒル魔の腰が突き上げられた。
 片足を持ち上げられたままのそんな動きにヒル魔は腰を揺らして声を堪えた。
「なっに、言って……」
「女みたいに、喘げってんだ」
 武蔵の側からは、誰が覗いているのか分かるのだろうか。斜めに傾いだ体を容赦なく突き上げられて、ヒル魔は大きく仰け反った。持ち上げられた脚の向こう側。そこに何人かがいるらしい。ヒル魔の股間を見られる事を避けるためか、持ち上げられた脚は武蔵の手の中でびくともしない。
「出来んだろ?」
 ヒル魔に声を出させるために、武蔵は 小さく腰を揺らす。
 女のふり。言われた意味を考えて、ヒル魔の頬が笑いに開いた。食いしばった唇が自然にゆるんで隠す事無く声が弾けた。
「んっ……、ぁんっ……!」
 背後で武蔵が笑っている気がした。落ち着いた場所での最中にそんな事を言われれば、喧嘩になるような発言だ。酔いも回り、疲労もたまり、慢性的な寝不足の中で妙な高揚感があった。

「ぁ……んっ、ぁんっ、んっ……!」
 「女」じゃあないから隠す行為も、「女」だったら見せつけられる。路地の奥に誰がいるのか、今もまだこちらを見ているのか、分からないままヒル魔はかん高く鳴いた。いつもなら声には出さないような、弱い刺激にも声を上げた。
「ひっ…、ぁ……ん、あっ、ィイっ……」
 声を上げるほど突き上げは強まった。声を上げるほど気持ち良かった。「女」の振りをして武蔵に抱かれているこの痴態を、見られいると思えばそれだけでイきそうになった。「女」の振りをしているだけで行為が正当化される気がして、もっと誰かに見せつけたかった。
 武蔵はヒル魔の股間を放置する。何度も自分でこすりあげかけ、その都度ヒル魔は目の前の壁に爪を立てた。
「触らなくても、イけんだろ」
 武蔵の動きが強くなる。張り詰めた雄の先端は、腹に付きそうな程勃ちあがっていた。シャツの裾に隠れるそこは、言われるまでもなく達する直前だ。

「ぁんっ、あぁんっ……、もっ……と、シてっ……」
 ヒル魔自身が腰を揺らし、繋がる部分に腰を押し付けた。欲しい、欲しいと繰り返し、スゴくイイ、と何度も叫んだ。
 路地の向こうに誰がいるのか、ヒル魔は確認さえ出来ていない。本当にそこに人がいるのか、武蔵のいつもの嘘なのか分からない。けれど、声を出したかった。女のように突き上げられて、喘いで、感じて、イくまでの声を垂れ流してやりたかった。
 誰かの耳に届くかもしれない。それが女の物と勘違いされる。そんな想像に興奮している。無意識の内に鬱屈していた部分があったらしい。「見せつける」事が酷くヒル魔を興奮させた。いつもより派手によがって叫び、一度も触られていないままでヒル魔は精を吐き出した。

 仕事帰りの道ばたで、突然やりたくなる。急に馬鹿みたいな事を言われて、それにとても興奮する。こういう奇妙な関係を、一体何と言うんだろう。それをここまで気に入っている、自分は一体なんなんだろう。

 汚い壁にもたれるヒル魔の奥に吐き出された、武蔵の体液が腹に熱い。突発的な外でのセックスにこんなに興奮出来るのは、多分相手が武蔵だからだ。
 散々好きに暴れ回った武蔵の熱が引き抜かれて行く。
 中から無くなるその感触に、名残り惜しくて声が漏れた。いつもなら、黙っていられる程度の刺激だというのに。見下ろしている武蔵の視線が、笑いってまた少し細くなった気がした。

 この関係に名前をつけるなら「セフレ」が一番相応しいだろうか。そう考えて可笑しくなる。それ以外の何も無い。だから、こんなに楽しいんだろう。愛情も無い。執着も無い。あるのは楽しむ気持ちだけ。
 適度に残るけだるさを眠気と共に感じながら、もっとヤりたいとヒル魔は思った。次はもっと広い所で。次はもっと人目のある場所で。多分武蔵はノって来る。それを思うと笑みが浮かぶのがわかった。

 「コンナコト」をここまで気に入っている、自分は一体なんなんだろう。
 内から湧き出る笑いが止まらずヒル魔は独り肩を揺らした。独り静かに、揺らし続けた。



















営業サラリーマン。この話にも色々と面白い感想をいただけまして
かなり意見の分かれるお話シリーズになっております。
自分の職業でムサヒルさせると蹴り倒したくなってしまうので
仕事のつっこんだ話になかなかなりません。

まあ、やってるだけのシリーズです。
ちなみに、「向こうを見ない」>「向こう見ず」というネタではありませんよ。